中国の軍事拡張と台湾の防衛戦略⑦
「二〇〇四年国防報告書」概要
〔非対称型戦略〕(続)
(三)巡航ミサイル‥近年、中国は対地巡航ミサイルの研究を積極的に進めており、二〇〇五年には地対地型を配備し、続けて艦対地および空対地巡航ミサイルの開発も続け、その性能は米国海軍のトマホークに近づくものと見られる。将来的には、低空から飛来するミサイルは捕捉しにくく、遠距離精密攻撃も可能という特性から、重要戦略目標に対して使用されると思われる。
(四)無人攻撃機‥中国は以前イスラエルから無人攻撃機を購入したことがあり、その機動性と精密度は高く、敵の防空偵察レーダーやアンテナを破壊するのに優れており、わが国の防空体制にとって脅威となっている。これの使用目的は、敵の早期警戒網、索敵レーダーを破壊し、通信機能を混乱させ、ミサイル攻撃に対する反撃時間を遅らせ、作戦初期において制空権を奪取するところにあり、わが国の防空体制が被害を受ける可能性は大きい。
(五)インフォメーション・ウォーフェア‥中国は敵の通信・情報ネットに対するハッカーやコンピューター・ウイルス侵入などによる電子攻撃を駆使するインフォメーション・ウォーフェアの分野を精力的に研究している。現在その技術は未熟とはいえ、すでに長期にわたるハッカー経験の能力を累積しており、相応の攻撃力を有している。
(六)マイクロウェーブ兵器‥中国は目下、非核型マイクロウェーブ兵器の研究開発を精力的に進めており、この方面に大量の資金および人的資源を投入している。今後十年以内に弾道ミサイルや各種砲弾を用いてマイクロウェーブを照射する能力を持つと見られる。もし台湾海峡で衝突が発生した場合、中国はマイクロウェーブ弾など「非殺傷型兵器」によって「電磁権」を奪取し、台湾の指揮、管制、通信、情報系統に重大な影響を及ぼすと見られる。
(七)電子戦‥中国はステルス・ミサイル、ステルス機、無人機の研究開発を進めており、マイクロウェーブ兵器と立体活用する戦術を構築しようとしている。
(八)特殊部隊‥七大軍区およびウイグル、チベット軍区はいずれも特殊部隊を備えている。特殊ゴムボートやホーバークラフトを装備する陸上、空中、渡河・渡海機動部隊で、緊急隠密作戦を任務とし、敵後方への突撃作戦能力を持っている。近年ではこれに降下部隊が加わり、急峻な地形や悪天候でも作戦が敢行できる訓練を強化し、陸海空軍の支援の下に無人攻撃機等も併用し、敵地の指揮、管制、情報、通信機能を麻痺させ、敵地での作戦主導権を掌握しようとしている。
(九)機動能力‥中国は鉄道、道路、飛行場、港など輸送面のインフラ整備を急いでおり、東南沿海部が作戦範囲になった場合の各軍区からの支援機動力を強化している。このほか「三軍作戦の立体化、情報の共有、指揮系統の自動化、基地の隠蔽化」を目的に、「重点投入、平戦結合」計画によって東南沿海部では道路、港湾、飛行場の拡張、新設などをほぼ完成している。さらに光ファイバー通信網も合わせ、各地での整備を急いでおり、これらによって中国軍の作戦支援能力は大幅に増す。
①鉄道‥近いうちに山西、四川、広東、甘粛、内蒙古、江蘇、上海、湖南、陝西、黒竜江などの二十路線が完成する。同時に既存線の快速化、ダイヤ複雑化、貨客分化などの技術向上を進めている。とくに「八縦八横」(注)拡充計画を基礎に西部鉄道網の幹線強化を図り、軍事輸送能力を強化しようとしている。二〇〇五年には中国の鉄道網は七万キロに達し、このうち電化路線は二万キロ以上となる。
②道路‥近いうちに福建、甘粛、遼寧、四川、雲南、湖北などの三十路線余が完成する。とくに道路建設は台湾に対する軍事作戦を目的に、沿海地区および東南地区を重点区域としている。二〇一〇年には人口五十万人以上の都市はすべて国道で結ばれ、総距離数は百八十万キロに達する。このうち高速道路は約三万キロに及び、経済効果にも大きなものが予想される。
③港湾‥すでに天津、象山、東山などの港湾拡張工事を完了し、計画中のものは旅順、大珠山、沙子口、上海、寧波、アモイ、湛江、楡林などである。
④空港‥龍田、?州など四十カ所の空港を整備拡張し、このほか約十カ所に空港建設の計画がある。
四、台湾に対する軍事的威嚇
中国はこれまで、台湾に対する武力使用の放棄を公約したことはなく、一旦戦争を発動した場合、速戦即決を戦略指導要綱としている。このため宇宙兵器、レーザー、通信、コンピューター化の技術向上を精力的に進めている。また、外国勢力の介入を阻止するため、海空軍および第二砲兵隊(ミサイル部隊)の遠距離精密攻撃兵器の配備を加速し、三軍総合作戦能力を発揮し、武力発動の初期において多大の戦果を得ようとしている。こうした準備の台湾に対する脅威は年々強まっている。
〔台湾武力侵攻の時期〕
中国は経済成長持続と政治の安定のため、短期内に突発的事変が起こらない限り、台湾海峡で戦争を起こす可能性は少ない。ただし中国の総合国力は年々上昇し、軍事力も大幅に増強されており、台湾海峡両岸のミリタリー・バランスが崩れた時、中国にとって「台湾問題」の軍事解決を進めやすくなる。だが中国の台湾に対する武力使用は、国際政治環境、国内の政治経済情勢、さらに台湾経済との相互依存関係など各種の要素に左右される。現在のところ、中国は台湾の政治情勢や政策を観察している段階である。
〔考えられる作戦〕
中国軍は台湾を攻撃するに際し、「最小の犠牲で最大の効果、集中攻撃による即決」を作戦要綱としている。二〇〇六年前後には台湾、中国双方とも新一代兵力が主力になっていると思われ、同時に数量において陸海空三軍ともわが軍は劣勢に立たされていることが予測できる。また人的資源、兵器の性能などはわが方が優勢を保てるが、宇宙関連、ミサイル、潜水艦の分野では劣勢に立たされるだろう。中国軍が年々増強されている現状において、わが方が国防力の転換を完成させていなければ、二〇〇六年には海軍力では中国側がわが方を上回ることになろう。この状況が続いた場合、二〇〇八年以降は双方のミリタリー・バランスは崩壊し、わが国の安全保障にとってきわめて不利な状況となる。
中国軍の拡張状況および米軍の研究資料から勘案すれば、中国が台湾に対して取り得る軍事行動には以下のものが考えられる。
(一)軍事的威嚇‥攻撃に有効な武器を多数装備し、台湾周辺水域へのミサイル試射、大兵力集結演習および三軍連合揚陸作戦演習、島嶼占領演習などを敢行し、台湾に対し軍事的圧力を強め、強要によって統一の目的を達成する。
(二)非対称型作戦‥武力の直接衝突によらず、サイバーテロ、金融破壊、電子戦、遠距離精密攻撃、奇襲による行政・軍事の主要施設破壊を敢行する。目的は、経済封鎖、経済混乱、民心分裂および台湾内部での暴動誘発などにより、軍の指揮、管制、通信、情報システムを崩壊させ、同時に独立派を孤立させ統一を促進するところにある。
(三)封鎖作戦‥台湾の貿易ルート、シーレーン、台湾海峡、主要港湾、海外航路、島嶼部に対する封鎖作戦を実施する。目的は、台湾の経済ラインを切断し、台湾の国際生存の環境を悪化させ、台湾内部の士気を崩壊させ、独立への動きを阻止して統一を完遂するところにある。
(四)武力による本格的攻撃‥三軍の大兵力と最新兵器をもって、台湾の政治、軍事の重要目標を破壊、制圧、麻痺、あるいは壊滅させ、まず短期による戦果をあげ、台湾占領を早期に実現する。
中国軍の台湾に対する選択肢を、中国政府の意図、所望する効果、さらに国際情勢などから考慮した場合、威嚇性を含んだ島嶼部の占領、遠距離精密攻撃と大兵力による本格的攻撃、長期にわたる海空からの封鎖による台湾の各種機能の半身不随化が可能性大である。
(注‥「八縦」は北京―上海、北京―広州、北京―九龍、北京―ハルピン、大同―湛江、包頭―柳州、蘭州―昆民および東部沿海路線。「八横」は隴海と蘭新の陸橋、上海―昆明、石炭輸送南北路線、北京―蘭州、揚子江沿岸線、南京―西安、西南部―沿海部)
【国防部 2005年12月14日】